出向は職種変更や転勤の場合と異なり、労働者に対し「指揮命令をする者が変わる」点に大きな特徴があります。労働者が自ら希望して採用された会社とは全く別の会社から指揮命令を受けて働くことになるからです。従って、なんら特別な契約なしに会社の業務命令で一方的に別の会社で働くことを労働者に強制させることはできない、と一般的には解釈されます。
■出向の根拠
出向先会社が出向元の労働者を指揮命令して労働させることができるという根拠はどこにあるのかと言うと「労働力を利用する権限」の譲渡を受けたからにほかなりません。従って、出向させる場合には労働者の承諾(明示または黙示を問わない)を必要とします。承諾を得る方法は、①個々の対象労働者にその都度承諾を求める、②就業規則を根拠とする、③労働協約を根拠とするものがあります。ただし、就業規則を根拠とする場合には単に休職規定として出向を規定しているだけでは不明確であり、出向させるための義務を課したと解することはできないとした裁判例もあります。
■就業規則の記載事項
あらかじめ出向の承諾があったというためには、就業規則に少なくとも、①出向先の範囲、②出向手続き、③出向事由、④出向時の労働条件、⑤復職の扱いなどを定めておく必要があります。そしてそのような定めを承知で採用され、またこのような就業規則の制定を知りながら特に異議を述べない場合は、出向の業務命令に対し黙示的な承認があったといえるでしょう。もちろん出向は会社の業務上必要なものであり、かつ必要の範囲内で行われるべきものであることはいうまでもありません。また、出向の業務命令を正当な理由で拒否した場合に、その拒否した事実だけを理由に懲戒処分はできないと考えられます。
■労働条件は十分な説明
出向の根拠となる就業規則が不整備であることや、出向先において出向元当時の労働条件を引き下げるような一方的な出向命令には、労働者の承諾を適正に得ることは難しいでしょう。出向対象者にとっては労働条件や職場が変わることに対して不安も多いものですから、無用のトラブルを防ぐためにも会社側の十分な説明と理解を求める姿勢が重要です。