出張中に起こった事故等によりケガを負った場合、人事総務担当者は、労災の認定を受けられるか否か不安に思うことがあります。今回は、このような出張中の労災についてまとめてみました。
■出張の定義と労災■
出張とは、 事業主からの指示命令により通常の勤務場所を離れて用務地に向かい、用務を終えて戻るまでの一連の過程をいいます。 この間は事業主の支配下にあるといえるので、 この間に起きた災害は原則として業務災害になると考えられます。 ただし、業務災害と認定されるには、「業務起因性」と「業務遂行性」が必要です。
■出張中の私的行為■
出張中は、その全行程が事業主の支配下にあるとはいえ、飲食、喫煙、移動中の睡眠などさまざまな私的行為が行われます。その私的行為中に災害にあった場合、次のような判例があります。
<業務起因性があると認められたケース>
宿泊先で飲酒後、階段から転落し死亡したケースでは、「慰労と懇親のための飲酒は宿泊に通常随伴する行為として、業務起因性が認められる」とされた。
<業務遂行性がないとされたケース>
宿泊先の旅館の2階自室から用便をしようとして転落したケースでは、「出張者が旅館内で用便を足す行為は生理現象として当然の行為だが、通常予想し得ない態様、方法等により用便を足す行為にまで、業務遂行性は認められない」とされた。
■出張中のみなし時間外労働の災害■
一般的に就業規則には、「出張等の事業場の施設外での労働であって、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したとみなす」という記述があり、これにより出張中は“事業場外みなし労働時間”が適用されます。ここで災害が所定労働時間外に起きた場合、労災の認定になるか否かが問題ですが、前述のとおり、
“出張中は事業主の支配下にある”と考えられるので、特段の私的行為や恣意行為によるものである場合を除き、 労災の認定には影響がないと考えられます。