労働災害が起きたときの補償は、一般的に労働者災害補償保険法(労災保険法)によって、治療費や休業補償の給付を受けることができます。しかし、被災した労働者の身体に障害が残ってしまい、働くことに支障がある場合や、亡くなってしまった場合の補償が問題になることがあります。このように、労災保険からの給付だけでは不足だったり、会社の責任を明確にするために、訴訟になることもあるので注意が必要です。
■高額な過労労災訴訟■
過労死裁判のきっかけとなった「電通事件」があります。この事件は、大手広告代理店電通の入社2年目の社員が、長時間労働のためうつ病となり自殺したという事案で、地裁判決では、長時間労働と自殺の相当因果関係を認め、長時間労働に対する軽減措置を取らなかったことによる会社の安全配慮義務違反を認定しました。その後この裁判は、最高裁まで争われ1億6千万円で和解した、と報じられました。
■増加する精神障害・過労死等■
年間の自殺者が3万人を超えていますが、精神障害(自殺を含む)による労災申請も増加しています。平成9年に41件だった申請が、平成15年で438件、平成21年で1,136件と増加しています。労災の認定までは、1年ほどの時間がかかり、申請のうち認定されるのは30%前後で、年齢は30~39歳が最も多くなっています。一方、過労死等事案は、平成21年の請求件数は767件と前年の889件に比べやや減少していますが、近年は900件前後で推移しています。
■対策■
労災があった場合は、“労災保険だけで万全”とはならないことがあります。労災の遺族補償年金は、遺族が1人の場合、給付基礎日額の153日分(給付基礎日額が1万円の場合、年間153万円)で、これは交通事故の自賠責の3千万円と比べても、低額であることがわかります。また、労災認定に時間がかかるため、被災者の家族感情の悪化も懸念されます。このような状況を反映して、最近では民間の保険に加入するケースが増えています。企業としては、労働時間管理を適切に行うなど、従業員の健康状態に目配りをすることも重要でしょう。