会社の事務所が入っているビルで管理の都合上夜遅くまで残業ができない場合、労働者は自宅に仕事を持ち帰ることもあるでしょう。その場合の持ち帰り残業には、上司の業務命令によるものと、労働者の自発的意思による場合がありますが、この時間は労働時間と考えられるのでしょうか。
■ポイントは「業務命令」と「指揮監督」■
判断のポイントとしては自宅での作業について会社から明確な業務命令がある場合、その自宅での作業が果たして会社の指揮監督下にあるのかどうかという点です。営業担当者のように本来所属する会社の事務所の外で業務のほとんどを行うような労働者の場合には、会社の外にいて業務をしながらも会社の包括的な指揮監督下にあり、会社が労働時間の把握が困難なために「みなし労働時間制」という取扱いがあります。持ち帰り残業については「みなし労働時間制」の場合と根本的に異なるのは、その作業の場所が私的な生活を営む“自宅”で行われるという点にあります。
■私的生活空間での「仕事」■
家庭での作業は私的生活と混在しているわけですから、その仕事に要した時間を全て賃金支払の対象とはしがたいし、また仕事の成果のみから賃金を決定するのも適切であるとはいえません。仮に会社が時間を指定して作業を命令したとしても、それより短い時間で仕上げて遊んでいたかもしれませんし、もっと長い時間を要していたかもしれません。その意味では営業担当者などと比べて会社の指揮監督の影響力は極めて希薄であるといえます。本来労働者にとって所定労働時間以外の時間、しかも自宅における時間は原則として私的な自由な時間ですから、労働契約の主旨からも法的にも、会社が自宅での残業を命じることができるのか疑問があります。
■持ち帰り残業はトラブルのもと■
従って労働者が持ち帰り残業に同意して作業を行った場合、残業分の手当を労働者が請求した場合に会社が拒否するのは難しいと考えられます。
いずれにせよ持ち帰り残業は、労働者の私的な時間と労働時間を不明瞭にするものですから好ましくありません。労働者の潜在的な不満も高まっている可能性もありますから、会社にとって長い目でみると大きなマイナスになるかもしれません。