今年の7月には改正育児・介護休業法の完全施行が控えていますが、いまや企業の人事管理においてはいかに仕事と家庭の調和を取っていくのかという視点が欠かせないものとなっています。とりわけ従業員の育児支援に関する企業の取り組みには様々なものがありますが、その中でも多くの企業で行われている施策が家族手当の支給です。今回はこの家族手当に関する近年の見直しの動きについてお伝えしたいと思います。

改革が進む家族手当
家族手当は、中小企業において役職手当や通勤手当と並んで、もっとも採用率が高い手当の一つでしょう。相場としては配偶者に対する手当が月額10,000円から15,000円、子どもに対する手当が月額3,000円から5,000円といったところではないかと思われますが、近年、この手当の見直しが多くの企業で進められています。

具体的には、配偶者に対する手当は全体として縮小、もしくは廃止の方向が強まっています。男性がその世帯の生計を維持し、女性は専業主婦であるとするシングルインカムの考え方の崩壊がその背景にありますが、この流れはもはや決定的であると言っても過言ではないでしょう。

これに対し、子どもに対する手当の考え方は大きくその考え方が二分されます。一つは配偶者同様、子どもに対する手当も必要ないという考え方、もう一つはむしろ最低限の生活の扶助として、子どもに対する手当を拡充しようとする考え方です。従業員の各年代における生計費負担を考えた場合、子どもの教育費が大きな割合を占めていることは明らかです。よって、実際の企業の選択としては後者の子どもへの手当の拡充という動きが大きなトレンドとなっています。

子どもへの支援を強める際の選択肢

こうした家族手当の子ども重視の方針を制度化する際には大きく分けて以下の3つの選択肢が存在します。


①子どもへの家族手当支給額を増やす
②子女教育手当を創設する
③次世代育成支援金(一時金制度)を創設する

まず①の手当の増額ですが、これは単純に従来の支給額を増やすというシンプルな対応です。イメージとしては月額5,000円であった手当を10,000円に増額するといったものになります。これに対して②の子女教育手当の創設は、子どもの教育費負担に対する支援というコンセプトを明確にしたいという場合に有効的な手段となるでしょう。
 

具体的には、高校生および大学生の子どもを持つ従業員については、例えば月額20,000円といった比較的高額の手当を支給するといった内容となります。月額20,000円と聞くと非常に高額でコスト負担が大きいと感じられますが、期間限定の手当であるため、実際の負担はそれほどまで大きくなく、また配偶者手当の見直しと併せて考えることで、十分にそのコストを捻出することも可能でしょう。例えば月額20,000円の手当を高校・大学の7年間限定で支給した場合、その総額は子ども1人につき168万円となります。これに対し、月額15,000円の配偶者手当を支給している場合、従業員が27歳で結婚したとすると、33年間の支給総額は実に594万円にもなります。とすれば、配偶者手当を仮に半額に引き下げれば、我が国の平均出生率程度の子女教育手当の原資を確保することは十分に可能となります。

最後に③の次世代育成支援金制度ですが、これは月額の支給額を増やすのではなく、支給方法自体を見直し、毎月の支給からイベント毎に一時金を支給する方法に変更する仕組みです。例えば、子どもの出生時、小学校・中学校・高校・大学への各進学時にそれぞれ30万円の祝金を支給するといったイメージです。この金額だけを見ると高いようですが、その総額は150万円であり、先ほどの子女教育手当よりも少ない原資でこれを導入することができます。

こうした一時金化の流れは、公的資格手当などでも見られるところですが、家族手当においては、実際に大きな支出が必要となるイベント時に集中的に原資を振り分け、従業員の負担増に応えるという発想で組み立てることになります。同じ原資であっても支給方法を見直すことでより大きな効果を得ることができる場合がありますので、人事制度改革の際にはこうした手当の一時金化という選択肢も持っておくと良いでしょう。

手当は基本給では見ることができない要素について、そのコンセプトを明確にした上で個別に設定していくものです。どのような人材を求めるのかという原点に立ち返り、より効果的な賃金の支給方法を模索していきたいものです。