労働契約において使用者が守らなければいけないことは多いのですが、他方の当事者である労働者にも、当然負わなければならない義務があります。

主たる義務
労働契約上の主たる義務は「労務の提供」です。ただし、単に出勤して働いていればよいというものではなく「良質の労務」を提供する必要があります。たとえば、二日酔いで満足に頭の働かない状態であったり、病気のため身体的に支障があって通常の勤務状態を保てなかったり、共同作業や安全性に悪影響を及ぼすような状態では義務を完全に履行しているとはいえません。このような場合、使用者はその労務の提供を拒否することができます。

契約の主旨に沿った労務提供であること
労働契約における労務とは、あらかじめの合意によって具体的に限定されない限り、使用者の指示に従うものをいいます。指定された始業時刻に遅れてくることや、合理的な理由なしに就業場所や職務の内容についての指示を守らないことなどは義務の不履行に当たります。

 
誠実義務(あるいは忠実義務)
労働者が使用者の利益を不当に侵害してはならないという義務で、社内であるか社外であるかは問いません。事実に基づかず、あるいは事実を誇張歪曲して使用者を非難中傷することなども含みます。

 
その他
使用者の営業上の秘密を保持しなければならないという「秘密保持義務」や使用者の利益に反するような競業行為をしないという「競業避止義務」があります。これらは「誠実義務」が根拠となっていると考えられます。議論の分かれるのが「労働契約終了後(労働者の退職後)にも存続するかどうか」という点であり、一般的には当然に義務が認められるわけではありません。
 
労働関係法令上は、 使用者に比べて圧倒的な保護を受ける労働者も労働契約上の義務を負います。自身の健康管理なども、家族だけではなく使用者に対する義務でもあると言えるでしょう。